感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

2008-01-01から1年間の記事一覧

同人誌と作家性

1同人誌について 「文学界」の「同人雑誌評」が今月号で、50年以上にわたる歴史を終えた(http://book.asahi.com/news/TKY200811110159.html)*1。まずは、長い間お疲れ様でしたといいたい。いままで注目することはなかったけれど、最近気になっていたのが同…

小説のプログラム 内言篇

1 小説は近代の文学として誕生した。近代文学とはすなわち小説のことである。小説が前時代の文芸ジャンルと異なる点はいくつかあるが、内面描写(以下「内言」とする)を重要な構成要素として取り入れたところが決定的だったといっていい。 前時代の文芸ジャ…

倫理的/存在論的、コミュニケーション的/システム論的

濱野智史氏の『アーキテクチャの生態系』を読んだ。啓発されたし、文学とか批評を考えるヒントも得ることができた。アーキテクチャの生態系作者: 濱野智史出版社/メーカー: NTT出版発売日: 2008/10/27メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 99人 クリック: …

方法としての竹内好

日本とアジア (ちくま学芸文庫)作者: 竹内好出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1993/11/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 11回この商品を含むブログ (27件) を見る竹内好とは、戦時中から中国文学を専門とし、論壇と文壇に幅広く関与した評論家として知…

窓から窓へ――『トウキョウソナタ』

東京に住むある家族の離散および崩壊と再生の物語。誰しもが認める通り話の大筋をまとめるとこうなるが、それに触れる前に、まずは窓に注目しておかなければならない。『トウキョウソナタ』は窓に始まり、窓に終わる映画だからだ。 注意すべきは、この映画に…

分析と総合――モダニズム以降の表現の可能性(3)

ファンにとっては言わずと知れたことだが、刑事・探偵ものドラマには画期となった作品が二つある。一つは、村川透ほか演出・松田優作主演の『探偵物語』(1979−80)。もう一つは堤幸彦演出・中谷美紀主演の『ケイゾク』(1999)。 ふり返ると、1970年代から8…

リアリズムの再考

前回のエントリーを読み直し、文学が好きだとか嫌いだとか、趣味判断とか感情を強調しているところが散見されて、われながらなんとも気色悪い。そんなこというまでもないことなのだが。原理主義のタチの悪さってこんな感じだろうなと激しく猛省。 ただ、分析…

前回の注改

最初に、前回のエントリーの訂正を。 東氏の「自然主義的リアリズム」観を、「相対的に可能性を省みられない(まあお役目御免的な)様式」と定義したことに関して、暴力的だというご批判を受けました。確かにそうですね。彼は現代社会に対応した様式を「ゲー…

良質なリアリズム――柴崎友香の私小説

リアリズムというものが、自分を取り巻く世界と向き合い、それを正確にとらえようとする志向性のことであるとすれば、このような志向性に対する不信感はいつの世にもあるものである。 こと日本では、リアリズムを継承したとされる私小説からして、実際はリア…

中上論と小泉元首相と批評についての話

1路地から路地ならざるものへ 以前にも告知した通り、「ユリイカ」で中上健次論を書きましたが、もう発売されている頃ではないでしょうか。「中上以後」というタイトルが示す通り、中上健次、阿部和重、古川日出男へとリレーする構成をとっています。テーマ…

批評について、考える。

前々夜の酔い痴れコメントに対して藤田直哉さんの「共鳴」を頂戴したり(http://d.hatena.ne.jp/naoya_fujita/20080914)、間借花さんから身体を気遣ってくれるコメントをくださったり(ありがとうございます。気をつけます)、こんなふうに拾っていただける…

醒めて、考える。

というか二日酔いです。アルコール漬けのエントリーはやっぱり酷いし痛い。なぜか(1)としてるけど、もうないことを祈るばかりです。商業性とそれに犯されない趣味判断という対概念で文学の可能性について議論することは、大衆文学とかエンターテインメン…

酔いながら、考える(1)

例によって焼酎を一升瓶一人で開けてると色々見えてくることがある。いやまあ、だいたいが妄想か雑念かエロなんだけど。最近の(このブログの)エントリーでは、表現分析においては形式と歴史の考察が重要だというきわめて保守的な説教ばかり言っていて、わ…

『ゼロ年代の想像力』読みました。

ゼロ年代の想像力作者: 宇野常寛出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/07/25メディア: ハードカバー購入: 41人 クリック: 1,089回この商品を含むブログ (263件) を見る宇野常寛氏が『ゼロ年代の想像力』でテーマにしたのは、価値観の流動化・多様化を背景…

前回の補遺

批評の方法については、ここでは何度か言及していることだけれど、僕が意図している方法は、表現論(テクスト分析など)の軸と歴史・社会分析(消費やコミュニケーション分析も含む)の軸を縦横におり合わせたものだ、ということです。表現論によってジャン…

青春小説論――佐藤友哉の自意識というモード

皆さんお久しぶりです。夏休みの宿題として、今月初め、中上健次論と青春小説論を自分に課しました。まにあいました。どちらも依頼原稿だったのですが、中上論は来月の「ユリイカ」中上特集に載る予定です。青春小説論の方は、残念ながら掲載媒体が発行でき…

『崖の上のポニョ』補足――宮崎アニメを物語論とは別の水準で、いまこそ語ろう。

承前*1 ただの魚なのに、宗介という人間の男の子に恋をし、人間になろうとするポニョ。とあるきっかけで、彼女は人間にもなれるようになるが、魚のときはとくに愛らしいキャラとして形象されている。つまり彼女は、キャラと人間(キャラクター)の間――半魚人…

『崖の上のポニョ』観ました。

見ての通り「ポニョ」は典型的な和製キャラといえるだろうけど、その母親が「リトル・マーメイド」にひき写しであることを読み取って、これは日本アニメがディズニーから生まれたことの隠喩ではないかとか、『ファインディング・ニモ』との主題の共有を読み…

古川日出男「狗塚カナリアによる「三きょうだいの歴史」」のための小文――話すように書くこと・書くように話すこと・歌うように話すこと

近代文学のはじまりは、まず、話すように書くことが目指された(言文一致運動、明治20−30年代)。そして、それはまもなく成就する(明治40年前後)。以降、誰もが話すように書くことを謳歌したが(大正期)、やがてそれに対する反抗が芽生え、書くように話す…

前回の補遺――いまキャラがもてはやされているのはなぜか?

「ユリイカ」(2008年6月)の特集「マンガ批評の新展開」を読みながら、緻密な表現論がいくつかあって激しく羨ましくなるのと同時に、いまは「キャラとコミュニケーション消費」があると批評になる時代なんだなと改めて確認したしだい。 およそ10年前なら、…

批評のコミュニケーション(2)、あるいはモダニズム以降の表現の可能性(2)

思えば、物語や意味になかなか結実しない言葉の列、即物的な文章を肯定的に評価する傾向が見られだしたのは、90年代の後半、J文学がにぎわったころである。たとえば、ベケット(というかジジェク)経由で中原昌也を擁護する絓秀実のジャンク文学(『「帝国」…

子供は煙である?

最近、公共の交通機関でベビーカーを折り畳むべきか(折り畳んで子供を抱っこしてスペースを開けるべきか)、そうしなくてもいいかという議論があるでしょう? 地方(満員電車という概念がなく、そもそも移動はマイカーじゃなきゃ無理な地方)のひとは意外に…

批評のコミュニケーション

日記が百回にせまったので、このさいに文芸批評の方法論についてまとめてみる。 +++ 僕がこのところ批評を実践する上でこころがけているのは、社会学的な環境分析・消費分析と、テクスト分析を軸にした表現論のリミックスである。そういうスタンスをとり…

桜庭一樹、擬態する作家

1 桜庭一樹の作品は、文学史における過去の作品から引用、模倣、擬態するところから成り立っていることは、よく指摘されるところであり*1、また自身による解説もある。 とはいえ、過去の作品からの引用や模倣・擬態は、過去の作品が読まれた文脈を意図的に…

「夜スペ中止」の訴えは悪平等?

民間の企業出身者(藤原和博氏)が校長を務めていた東京都杉並区立の和田中学校で、今年1月から「夜スペシャル(夜スペ)」という有料の授業が始まりました。学習塾の講師が教壇に立ち、今まで公立学校では対応しにくかった成績上位層の生徒に向けた授業を提…

データベース的、郵便的

イーディさんこんにチは。コメントありがとう。講義のためにいろいろ図像を集めていたのですが、たまたま「モンドリアン」のイメージ検索をしたら、下記の連鎖の通り、とんでもないことになっていたわけです。グーグル検索さまさまですね。これはほんの一部…

物語の連鎖、ひたすら連鎖

(例1)作家間、固有名間のオマージュ的連鎖。 マネ『バルコニー』1868 マティス『コリウールのフランス窓』1914 ザオ・ウーキー『アンリ・マティスに捧ぐ』1986 この連鎖においては、マスターピースを軸にした美術史の豊穣な物語が語られるだろう。具象と抽…

非私小説的彼依存型私語り自動生成機械、またの名をオートフィクション

蛇にピアス (集英社文庫)作者: 金原ひとみ出版社/メーカー: 集英社発売日: 2006/06/28メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 32回この商品を含むブログ (123件) を見るアッシュベイビー (集英社文庫)作者: 金原ひとみ出版社/メーカー: 集英社発売日: 2007/05/18…

最近僕が継続的に試みている、単線的な見取り図から文学を論じること、歴史的な視点から個々の作家なり作品を論じることがほとんどバカげたことじゃないかと思い知らされる映画二作

サッドヴァケイション プレミアム・エディション [DVD]出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント発売日: 2008/02/27メディア: DVD購入: 3人 クリック: 103回この商品を含むブログ (98件) を見るずぼらと金欠が結果してDVD鑑賞になってしまったが(443…

現代批評の一分(3)――テクストと!

殺人事件の謎に萌えるのか、名探偵のキャラに萌えるのか。いや、ていうか、多分これはそんな複雑な問題じゃなくて、ミステリーは単に『面白いから』、生まれて、はやって、今もなお生きているんだと、僕はそう思いたいものです。『不気味で素朴な囲われた世…