感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

2006-01-01から1年間の記事一覧

サプリメント批評宣言・注釈

先日書いた「サプリメント批評宣言」は、単なる僕の思い付きではなく、日常的にウェブのレビューサイトを閲覧していたら容易に気付くようなことを発想の源泉としている。その意味では、「サプリメント批評宣言」は現状の追認でしかない。 ウェブ上には「私」…

サプリメント批評宣言

ここ最近、アニメ・マンガなどのサブカルチャーのみならず、小説や映画の作品までもが、まるでサプリメントを飲むように消費されている現状が報告され、それを憂える人たちがいる。即効激やせ! スリムになれるとか、ビタミン入り、一週間で血液サラサラとか…

著作権保護期間延長の動きについて、文学は何をしてるの?(3)

12月11日開催の「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」第1回シンポジウムに行ってきた。僕は基本的に反対派*1だから、反対派の代表・福井建策氏の著書と変わらない滑らかなロジックを堪能し、「青空文庫」の呼びかけ人・富田倫生氏の、「青空文庫」…

「私」のデザイン(Ver.30年代)

1 私語りをなんのテレもなく平然とやってのける「近代的自我」などすでに信じられなくなったというのに、いまもってその私語りが盛んになされている――しかも、固有の「私」を解放してくれると期待されていたネットがその中心的役割を担っているだなんて!――…

著作権保護期間延長の動きについて、文学は何をしてるの?(2)

著作権保護期間延長の問題に関して、反対派賛成派考察派をふくんだ動きが、僕のような素人にも目に見える形で活発になってきている。文学研究学会のひとつ「現代文学会」では著作権をテーマにしたトークショーを行うようだし、なにより、様々な分野の研究者・…

ミニマムな歌声を聴く――阿部和重『ミステリアスセッティング』

ミステリアスセッティング作者: 阿部和重出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 2006/11メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 11回この商品を含むブログ (64件) を見る1 「少女の悲痛な歌声が、奇跡を起こす」という帯に巻かれた阿部和重の『ミステリアスセッ…

「児童書」から「一般書」に成長すること

削除ボーイズ0326作者: 方波見大志出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2006/10メディア: 単行本 クリック: 85回この商品を含むブログ (69件) を見る受賞者に2000万円というふれこみで話題になった第一回「ポプラ社小説大賞」で、みごとに大賞を受賞した方波見…

現代批評の一分

araig:net氏が、現代における批評はいかにあるべきか、ということを書いている。サプリメント的に作品が生産・消費される世の中にあって、批評は可能なのか? 可能なら、どのように作品と接するべきか? というようなことだ。そのへんのことに関心のある人は…

mixi文学賞

mixiにて、だれでも参加できる文学賞が、一コミュニティとして立てられている。「応募資格」は、「老若男女、プロアマ問わず誰でも投稿可」*1。 この文学賞のユニークなところはいくつかあるけれど、応募者だけじゃなく、選考員も「だれでも参加できる」とい…

「好きだ、」の「、」

好きだ、 [DVD]出版社/メーカー: TCエンタテインメント発売日: 2006/09/22メディア: DVD購入: 7人 クリック: 153回この商品を含むブログ (253件) を見る石川寛の「好きだ、」はとてもよかった。役者だよりという面もなきにしもあらずだけれど(単館映画好き…

著作権保護期間延長の動きについて、文学は何をしてるの?

以下、参考テキスト。*「著作権問題を考える創作者団体協議会」が出した「共同声明」 http://www.mpaj.or.jp/topics/2006_18.html *著作権保護期間延長の動きについて、参考になるテキストをまとめたサイト http://d.hatena.ne.jp/copyright/20060917/p1 …

陰日向に咲く美しい文学

月に何本かでも小説を読んでいると、この作家は《文学に対して何かをしようとしている》のか、それとも、《文学の中で何かをしようとしている》のか、くらいの見分けはつく。私のような文学の素人でもそんなのワケない。おそらく、作品の出来不出来を判断す…

美しい文学畑の陰日向に咲く

今回の芥川賞の選評を読んでいて、ひとつ感じたことがある。至極単純なことなんだけれど、つまり「お前らそろそろ希望的観測を語れや」と、選者が口をそろえて言っていることなのだ。最近の作家は、暴力とか病気とか精神的荒廃とか否定的なキャラ属性なり背…

時を逆行する批評

すでに私は、記憶障害ものとよみがえりものについて、話をしている(06-01-23と06-04-20の日記)。最近の娯楽作品でよく採用される、この二つのテーマに深く関わるものに、タイムトラベルがある。以前話題にした「いま、会いにゆきます」も、タイムトラベル…

トロメラ!

第4部 ナイト・オブ・ザ・アダルト・チルドレン 久しぶりにタダユキを交えて河森家一同が会する食事会を開いているときのこと、ケイタは自分が変な兄ちゃんに追いかけられたときのことを笑い話として酒の話題にし、それからイチコが目撃することになった横転…

トロメラ!

第3部 いないいないばあ 今年晴れて入学式を迎えた男の子と女の子が一人ずつ市川の河口から発見されたのは、ケイタが幽霊騒動に巻き込まれていたのか一人騒いでいた時期の、梅雨もようやく明けて暑くなりはじめた頃、来季の就農に向けて着々と準備を進めるイ…

トロメラ!

第2部 昼下がり 当スーパーニゴ来店イタダキマシテ誠ニアリガトウゴザイマス。まだ幼い女の子を河口ぎわのエツの家に預かってもらい、保育園を終えた長男を車で迎えに出た帰りの途中、ついでに買い物にたち寄ったスーパーのなかは、昼過ぎだからかまだ客の入…

「ユナイテッド93」

ユナイテッド93 [DVD]出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン発売日: 2006/11/30メディア: DVD クリック: 52回この商品を含むブログ (133件) を見る「ココヴォコ図書館」と「araig:net」の両サイトがレヴューしているから(「感情レヴュー」…

トロメラ!

第1部 ウェルカム・トゥ・幽霊町 今年で二十九になるケイタが私の母の家に転がり込んできたのは、ようやく馴染んできた暖かい気候をときおり嘘のように残りものの冷気が襲う、いまからふた月三月ばかり前の春先にさかのぼる。私たちが生まれ育った町は、まぢ…

トロメラ!――あとがきだかまえがき

おはようケーちゃん、昨日はシンちゃんがお世話になったね。お互いけっこう飲んだよ。サキちゃんも来てるが。うん、車あったからわかった。おはようケーちゃん。おはよう。ほらケータおにいちゃんだよー、色男が来たよー。なんかこっちじーっと見てる。少し…

ジ・エンド・オブ・ザ・「DEATH NOTE」

DEATH NOTE デスノート(1) (ジャンプ・コミックス)作者: 小畑健,大場つぐみ出版社/メーカー: 集英社発売日: 2004/04/02メディア: コミック クリック: 211回この商品を含むブログ (911件) を見るいきなり決め付けからはじめるけれど、「デスノ」の終盤が納得…

33年式キングコングVS新コング

キング・コング 通常版 [DVD]出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル発売日: 2006/05/25メディア: DVD クリック: 40回この商品を含むブログ (111件) を見るキング・コング [DVD]出版社/メーカー: アイ・ヴィ・シー発売日: 2002/07/25メディア: DVD クリ…

反東京タワー

獣のごとく日々面白そうな作品を求めている私のような者にとっては、ウェブ上の映画・文学・マンガなどのレヴューは、いまや欠かせない情報源となっている。それこそウェブ上ではいたるところに、様々な作品をめぐっての、様々な言葉が書き込まれている。そ…

少女マンガの一断面――8月30日の復習(2)

ここ数年、少女マンガの話題作といえば、「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子)と「NANA」(矢沢あい)と「ハチミツとクローバー」(羽海野チカ)あたりになるんじゃないかと思います。ほんらい少女マンガに関心を持たないような人も、この三作のうちの…

よみがえりもの

以前、記憶喪失もの、記憶障害ものの話をしました(06-01-23)。んでですね、それと対をなす形でよみがえりもの、なんてのがあるんですよね。死んだはずの人がよみがえり、こちら側の者は違和を感じながらも、死んだはずの者と新たな関係を切り結んでいくと…

文芸メモ

最近ようやく単行本化された阿部和重氏の『プラスティック・ソウル』を読み、そこに併載された福永信氏の解説文「「プラスティック・ソウル」リサイクル」を読みました。 「リサイクル」の方は本文を解説しているわけだけど、それがまあ微に入り細に入りで、…

政治の分業体制

まだわかりませんが、民主党の永田寿康議員がメール告発の件で議員辞職する意向を示しているようです。僕が以下に書く文章は、彼個人を擁護するとかしないとかとはまったく無関係です。ただこの騒動に関して思うところを書きました。先日のブログとあわせて…

風説の流布だとか知ったような口をきくな

民主国家を標榜する以上、不正告発の声を上げる権利は誰にでも開かれている。たとえそれがガセでもだ。しょせんガセだとわかれば、それ相応のペナルティが課されるにすぎない。それを審理するためにこそ様々なチェック機関なり制度が設けられている。マスメ…

江夏豊はなぜ阪神の現役であり続けなければならないのか?

ここ十数年、記憶喪失とか記憶をいじることで物語を作り出す傾向が一つの主流になっていることは、映画とかマンガをそこそこ消費している人にとっては自明なことでしょう。たいていは物語に感動かサスペンスをもたらすなり補強するための要素として「記憶い…

新年好!

実家に帰っていました。久しぶりに屋根に上って雪下ろしをしたんですが、なかなかこう昔やったフォームというのは忘れないもので、われながら美しいなと思いながら雪下ろしをしての翌日がもう体中が痛くてさすがに若くないというか体もけっこうきてるんです…