感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

レヴュー

3・11以後の小説――新たな政治と文学に向けて

2011年。わたしはあらためて、「神様2011」を書きました。原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段にかまえた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりもむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可…

柴崎友香論を寄稿

きたる6月12日の文学フリマで販売される文芸同人誌『S.I.』(http://d.hatena.ne.jp/leftside_3/20110609)にエッセイを寄稿しました(1万7千字超)。タイトルは「ファミリーリセンブランスとしての私 柴崎友香論」です。 議論の展開は、まず文学史の背景と…

リズム タイミング インプロビゼーション

『P vol.2』という文学系ウェブ雑誌に、原稿用紙5枚くらいの小文エッセイを寄稿しました⇒http://p.booklog.jp/book/17391。 タイトルは「リズム タイミング インプロビゼーション」といいます。3月11日以降の現在進行形の出来事を受けて文学研究する立場か…

『ユリイカ』に貴志祐介論を寄稿

『ユリイカ』に貴志祐介論を寄稿しました(青土社『ユリイカ』ページにGO!→http://www.seidosha.co.jp/index.php?%B5%AE%BB%D6%CD%B4%B2%F0)。ユリイカ2011年3月号 特集=貴志祐介 『黒い家』『硝子のハンマー』『新世界より』『悪の教典』『ダーク・ゾー…

村上春樹ブックガイドの寄稿の告知

こんにチは。お久しぶりです。ユリイカ2011年1月臨時増刊号 総特集=村上春樹 『1Q84』へ至るまで、そしてこれから・・・作者: 村上春樹,福田和也,斎藤環,市川真人,大澤真幸,四方田犬彦,山崎まどか出版社/メーカー: 青土社発売日: 2010/12/13メディア: ムック購…

エッセイ寄稿の告知

告知が遅くなりましたが、今月初旬に発売されたユリイカ10月増刊号「冲方丁総特集」にエッセイを寄せました。「物語に選ばれた作家 冲方丁の小説の書き方」です。どうぞよろしく。http://www.seidosha.co.jp/index.php?%D1%D5%CA%FD%C3%FA ユリイカ2010年1…

島田雅彦『悪貨』

悪貨 (100周年書き下ろし)作者: 島田雅彦出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/06/21メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 34回この商品を含むブログ (14件) を見る島田雅彦の近著『悪貨』について感想を述べます。まず悪貨というくらいだから、貨幣について…

寄稿の告知

来る5月23日の第10回文学フリマに出品する『PLAYBOX vol.2』という同人誌にエッセイを寄稿しました(「PLAY-BOX PROJECT」、ブースはT-17、http://d.hatena.ne.jp/inhero/20100516)。タイトルは「逆セカイ系から見た私 ゼロ年代のジャンル史論」といいます…

語り手とキャラクター タグとしての呼称

アーキテクチャとコンテンツにばかり注目が集まる中で、ジャンルの形式を精確に論じることができる論者はいまや数少ない。「早稲田文学増刊U30」で西尾維新のキャラクター造型について論じる伊藤亜紗は、その数少ないうちの一人で、いつも楽しく読んでいるの…

彼女が髪を切った理由――川上未映子『ヘヴン』

「だから、ぜんぶをぴしっと切っちゃうんじゃなくて、一部だけちょっと、ほんの少しだけ切るのが大事なんだって。君ちゃんと見た? 学校のだってぜんぶさきっちょしか切ってなかったでしょ? あれぜんぶ完璧におなじ長さなんだよ。大きくじゃきじゃき派手に…

残暑見舞いと『サマーウォーズ』――細田守論

待ちに待った『サマーウォーズ』(http://www.youtube.com/watch?v=2Wi2lb1sVk8&feature=channel)。今年は再び細田守の青空が見れる。久しぶりの青空だ。細田が背景に置く、奥行きのないフラットな青空は、キャラクターのいかなる心理(の起伏)をも受け入…

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の破れっぷりは見事で、とても楽しく観ることができました。少し感想を書きます。 新劇場版第一弾のヱヴァ:序はテレビ版を極力トレースするウォーミングアップだったと思いますが、今回のヱヴァ:破は、「関わりを持つ」と…

『BOSS』VS『MR.BRAIN』

この春は刑事・探偵もののドラマに収穫があったので報告。まずは『MR.BRAIN』(TBS、http://www.tbs.co.jp/mr-brain/)。今週で最終回とは残念すぎる。 最初は、キムタク版「古畑」!?と疑ったり(犯人役が有名人ゆえの倒叙トリックの活用という図式は「古…

文学におけるナレーションの効用――鹿島田真希と村上春樹

[rakuten:book:13177064:detail] 鹿島田真希論、書き終わりました。どこかの雑誌に載る予定なので、発売が近付いたときに改めて紹介します。 セールスポイントは、前回のエントリにも書いた通り、鹿島田作品をメタフィクション批判の観点から分析していると…

メタフィクションを「降りる」方法

文学フリマに行きました。「Children」を売り捌いていた条さん、ジャムさんお疲れ様でした。初対面なので、ドキドキしててうまく喋れなかったよ。ところで、kugyo氏がその文学フリマで手に入れた同人誌55タイトル全レヴューを「24」(ジャック・バウアー)の…

文学フリマに参加する同人誌『Children Vol.05』に「アプレゲールのリアリズム」を寄稿しました。

『Children Vol.05』に論文を寄稿しました(詳しくはhttp://d.hatena.ne.jp/natume_yo/20090430、http://d.hatena.ne.jp/inhero/20090510)。タイトルは「アプレゲールのリアリズム」。1945年から50年代の戦後美術史についてのものです。博士論文の一部を「…

諏訪哲史『ロンバルディア遠景』

諏訪哲史氏の『ロンバルディア遠景』(「群像」2009年5月号)は見事に期待を裏切らないものでした。一ファンとしては、エンディングで「明後日」(もちろんアサッテ!)が記されたときにはぞくぞくっとしたものです。「明後日だ。僕はふたたび旅に出る」。 …

131年の歴史

mixiで読んだ記事(「ゲンダイネット」配信)についての感想から。 “連ドラ”“CM”タイアップ出演のありがた迷惑 ドラマ界で侃々諤々の議論が起きている。ドラマの途中で、そのドラマに出演しているタレントが起用されているCMがオンエアされるケースが増…

極北の一ケース

これほどまでに安っぽい背景の中で、これほどまでにいい加減な人物設定で制作された、この種のジャンルを我々はいまだかつて見たことがないはずだ。それにしても何故また我々は、性懲りもなく見てしまうのか。『キイナ 不可能犯罪捜査官』(http://www.ntv.c…

水村美苗の『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で作者: 水村美苗出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/11/05メディア: 単行本購入: 169人 クリック: 12,657回この商品を含むブログ (459件) を見る水村美苗の『日本語が亡びるとき』ようやく読んだ。発売以来ネット上で…

同人誌と作家性

1同人誌について 「文学界」の「同人雑誌評」が今月号で、50年以上にわたる歴史を終えた(http://book.asahi.com/news/TKY200811110159.html)*1。まずは、長い間お疲れ様でしたといいたい。いままで注目することはなかったけれど、最近気になっていたのが同…

倫理的/存在論的、コミュニケーション的/システム論的

濱野智史氏の『アーキテクチャの生態系』を読んだ。啓発されたし、文学とか批評を考えるヒントも得ることができた。アーキテクチャの生態系作者: 濱野智史出版社/メーカー: NTT出版発売日: 2008/10/27メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 99人 クリック: …

窓から窓へ――『トウキョウソナタ』

東京に住むある家族の離散および崩壊と再生の物語。誰しもが認める通り話の大筋をまとめるとこうなるが、それに触れる前に、まずは窓に注目しておかなければならない。『トウキョウソナタ』は窓に始まり、窓に終わる映画だからだ。 注意すべきは、この映画に…

良質なリアリズム――柴崎友香の私小説

リアリズムというものが、自分を取り巻く世界と向き合い、それを正確にとらえようとする志向性のことであるとすれば、このような志向性に対する不信感はいつの世にもあるものである。 こと日本では、リアリズムを継承したとされる私小説からして、実際はリア…

中上論と小泉元首相と批評についての話

1路地から路地ならざるものへ 以前にも告知した通り、「ユリイカ」で中上健次論を書きましたが、もう発売されている頃ではないでしょうか。「中上以後」というタイトルが示す通り、中上健次、阿部和重、古川日出男へとリレーする構成をとっています。テーマ…

『ゼロ年代の想像力』読みました。

ゼロ年代の想像力作者: 宇野常寛出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/07/25メディア: ハードカバー購入: 41人 クリック: 1,089回この商品を含むブログ (263件) を見る宇野常寛氏が『ゼロ年代の想像力』でテーマにしたのは、価値観の流動化・多様化を背景…

『崖の上のポニョ』補足――宮崎アニメを物語論とは別の水準で、いまこそ語ろう。

承前*1 ただの魚なのに、宗介という人間の男の子に恋をし、人間になろうとするポニョ。とあるきっかけで、彼女は人間にもなれるようになるが、魚のときはとくに愛らしいキャラとして形象されている。つまり彼女は、キャラと人間(キャラクター)の間――半魚人…

『崖の上のポニョ』観ました。

見ての通り「ポニョ」は典型的な和製キャラといえるだろうけど、その母親が「リトル・マーメイド」にひき写しであることを読み取って、これは日本アニメがディズニーから生まれたことの隠喩ではないかとか、『ファインディング・ニモ』との主題の共有を読み…

古川日出男「狗塚カナリアによる「三きょうだいの歴史」」のための小文――話すように書くこと・書くように話すこと・歌うように話すこと

近代文学のはじまりは、まず、話すように書くことが目指された(言文一致運動、明治20−30年代)。そして、それはまもなく成就する(明治40年前後)。以降、誰もが話すように書くことを謳歌したが(大正期)、やがてそれに対する反抗が芽生え、書くように話す…

前回の補遺――いまキャラがもてはやされているのはなぜか?

「ユリイカ」(2008年6月)の特集「マンガ批評の新展開」を読みながら、緻密な表現論がいくつかあって激しく羨ましくなるのと同時に、いまは「キャラとコミュニケーション消費」があると批評になる時代なんだなと改めて確認したしだい。 およそ10年前なら、…