感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

2020-01-01から1年間の記事一覧

純文学私的回顧2020

今年は24のタイトルをブログに投下できた。ブログを始めた2005年が23なので、それを上回る。文字数は圧倒的に減ったとはいえ。37と最もタイトルが多い08年はゼロ年代批評の活況が頂点に達した時期だったと記憶する。とはいえ、文学の批評は、ライトノベルや…

運動としての文学史

文学史がなんとなく注目されている。『週刊読書人』では、2週にわたって「文学史」の話題が記事に取り上げられた。12月4日号は、『〈戦後文学〉の現在形』(平凡社)の編著者(紅野謙介・内藤千珠子・成田龍一)の鼎談が1面を飾り、戦後文学史について議論が…

第2回「BFC」と新設「みんなのつぶやき文学賞」

週末は酒を飲みながらぼんやり読書をするつもりだったのだが、11月14日からTwitterのタイムラインが熱く、同期する話題が複数あったため、簡単に記しておきたい。 高村峰生が、「ハイカルチャーとポップカルチャーの差」に言及したツイートが話題となり、一…

第2回ブンゲイファイトクラブ雑感

まずはTwitterから。『有島武郎―地人論の最果てへ』が絶賛発売中の荒木優太が「物語の社会反映論の流行」として最近の文学の傾向―社会の役に立とうとする文学―に警鐘を鳴らしている。荒木は『週刊読書人』で書評を担当しており、この1年間は文芸誌を最も読ん…

第42回野間文芸新人賞雑感

10月は「LGBTQ+展」―「Inside/Out─映像文化とLGBTQ+」(早稲田大学演劇博物館)―と、「死刑囚表現展」(松本治一郎記念会館)があった。前者はまだ開催中だが(https://www.waseda.jp/enpaku/ex/10407/)、後者は3日間のみの開催で、急ぎ足を運んだ。 両展…

純文学論争再論

批評という営為は―私に限っては今はクレーマーに甘んじているわけだが―場を作ることだと思っている。 最近、Twitterで「ジャンル間の階級制の問題」(小谷真理)が話題になった。事の発端は、村田沙耶香や川上弘美、笙野頼子ら純文学に属するとされる作家の…

2人称の活用法

批評をやっていると―私は文学クレーマーだが―、作品評価というものについて考えることがある。文芸批評は、根拠のない誹謗中傷や、たとえ根拠があっても行き過ぎた罵倒を行いがちであり、それが文化的営為として(?)なんとなく放免されてきた―作家にとって…

第33回三島由紀夫賞雑感

誤解を恐れずに言えば、文学が哲学などの営為と決定的に異なるのは、読者がいることである。いくら手法を研ぎ澄ませ、思弁的になっても、読者が付いてこなければ意味がない。読者層をどのレベルに想定するのかはその次の話だ。 平成文学は、女性・非男性作家…

柄谷行人・遠野遥・小川洋子・百田尚樹

戦後75年目の8月も過ぎようとしている。台湾のデジタル大臣がインタビューのなかで、柄谷行人の読者であることを話し、SNSの話題になった。2000年前後までの批評界のスーパースターだった柄谷は長らく敬遠され続けた存在であったのだが。 https://toyokeizai…

PC批判と文化的盗用

こんにちは、文学クレーマーの中沢です。いくらイキってみても、世間的には、批評家はいまやクレーマーでしかないという眩しいツイートを目にして、これほど自分に合った属性表現はないと思った次第。元々批評家ですらないのだが、当面文学クレーマーでいき…

「ブラック企業」の語用をめぐる係争点

https://www.asahi.com/articles/ASN7X31M3N7QULFA03Q.html https://twitter.com/shintak400/status/1288432971783917570 「ブラック企業」の語用をめぐる対立。とてもクリティカルな係争点があるので、ポストしたいです。今野晴貴氏と河野真太郎氏、両方間…

蔓延するコロナ小説

1、最近どういうわけか、コロナ関係の小説を集中的に読んでいる。各誌時評などで取り上げられているので気になって文芸誌を漁って読み始めたのだが、想像以上に多数あって驚いた。創作だけではなく、エッセイや日記、評論を加えれば1冊まるごとコロナ本?と…

2020年上半期芥川賞雑感(3)

最後に遠野遙氏の「破局」(『文藝』2020・夏)についてお話ししたいです。本作は文学史に置いてみると際立った特異性が見えてきます。 まず遠野のキャラクターにおいて指摘できる点は自閉症的な主体ということです。自閉症的な主体といえば、ゼロ年代の文学…

2020年上半期芥川賞雑感(2)

小説の話者には4つのタイプがあります。理性的な話者、狂った話者、狂ったふりをしている話者、理性的なふりをしている話者の4つです。もちろんこれは認知的な判断なので、理性的か、気が狂っているかを評価するのは読者―この私―であるわけですが。 さて、今…

2020年上半期芥川賞雑感(1)

2020年上半期芥川賞が、団塊ジュニアとゆとり世代の対決であることをご存知でしたか? 石原燃(1972)、岡本学(1972)、高山羽根子(1975)、遠野遥(1991)、三木三奈(1991)。 1972年生の私は、1991年生の2氏の作品に多くを惹かれました。若い者の気持ち…

フィクション、なぜ悪い?

書評家の豊崎由美氏が、『週刊新潮』の書評の処遇についてツイートしていました(6月22日)。『週刊新潮』の書評欄は、今後、俳優や学者・政治家など有名人にまかせることになったと近況を説明し、プロの書評家の軽視と有名人偏重になることを批判されたんで…

文学史・書評・文学業界

1、矢野利裕氏が『文学+』の感想をツイートしてくれました。とてもありがたいです。私の文学史論「純文学再設定+」にもコメントをもらいました。 文学史は、文学の一般規則のようなものを前提し、そこに各作品・作家をマッピングする作業ではなく(そうい…

見たいものしか見たくない時代の文学史(2) テクストとパラテクスト

1、前回の記事「見たいものしか見たくない時代の文学史」では、純文学のメジャー文芸誌体制を批判するために、少しライトノベルやウェブ小説周辺を理想化しすぎたかなと思っていました。 2、ところが、どなたかのSNSの発言を読んだんですが、ウェブ小説の…

見たいものしか見たくない時代の文学史

1、同人誌発売の告知をかねて2週間ほどTwitter解禁してみたんですが、自分はTwitterをやっちゃいけない人間なんだなあと改めて思いました。イキリ体質なんで、140字でいかにキメてやるかをいつの間にか考えている。SNSの中でも特にTwitterは中毒性がありま…

2020年代の文学を考えるために

7日間ブックカバーチャレンジ 【1日】メジャー文芸誌体制 文芸批評家の青木純一さんからブックカバーチャレンジのバトンを受け取りました。私は、文学史家として笑、これから10年間の文学を考える手引きとしたい本のブックカバーを7日間にわたってアップし…

文芸批評の文体

1、Twitterを眺めていたら、どういうわけか蓮實重彦の文体に関するツイートが2、3散見されたので、文芸批評の文体について感想を書きとめておきたい。 2、文芸批評は、小林秀雄以来、文体問題とは切っても切れない関係にある。小林は、そのデビュー作に…

主題の積極性

1、先般の芥川賞は古川真人の「背高泡立草」に決まった。SNSでの予想合戦は、おおかた、千葉雅也「デッドライン」や木村友祐「幼な子の聖戦」、乗代雄介「最高の任務」に集中しており、結果はそれを裏切るものだったと言える。 2、芥川賞決定後もSNS(ほぼ…

乗代雄介「最高の任務」

1、私は「最高の任務」1オシ。 最近こんなに描写で引かれた作品はない。要所に和歌があったり、過去の日記や著書からそのつど情や景を立ち上げていく。それは歌物語を思い起こさせるが、電車に乗りながらの道行・紀行文でもある。 そこに書かれるのは、一…

純文学展望2020

1、昨年は『文藝』の韓国文学特集(「韓国・フェミニズム・日本」)を中心に、文芸誌が何かと話題になったが、今月発売予定の『文藝』SF特集も予約など堅調らしい。 ただし、円堂都司昭が分析している通り、文芸誌が新しい市場を開拓したとかいう話ではな…