感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

第2回「BFC」と新設「みんなのつぶやき文学賞」

週末は酒を飲みながらぼんやり読書をするつもりだったのだが、11月14日からTwitterのタイムラインが熱く、同期する話題が複数あったため、簡単に記しておきたい。

高村峰生が、「ハイカルチャーポップカルチャーの差」に言及したツイートが話題となり、一部批判も受けていた。「「ハイカルチャーポップカルチャーの差なんてないんですよ」という主張は、当然差があると思われているところでは意味があるが、もともと差がないと思われているところでは、単に迎合的になる危険性がある。なので、自分も状況に応じて使い分けている」(11月14日)。この発言に異論はない。私も状況に応じて高村と同じような使い分けをするように思う*1

他方、同じ日に倉数茂がブンゲイファイトクラブBFC)をめぐるツイートで重要な発言を投下したが、これはさほど注目されていない。「BFCの意味みたいなことを考えているんだけど、コンテンツ(資本主義はつねに作品を流通可能な商品に変えていく)化した文学をあらためて遊戯の場に引き下ろした、というところだと思う。遊戯と生成の場。」(11月14日)。倉数は、連投ツイートにおいて「文壇の権威分配のためのシステムである文学賞」にも言及している。

BFChttps://note.com/p_and_w_books/n/ncafcebf86663

問われているのは、カルチャーの質(ハイかポップか)ではなく、カルチャーの運動性である。この観点から見ると対立軸も当然変わってくるだろう。さしあたり、静的なカルチャー―場合によっては権威化しコンテンツ化する―と動的なカルチャーの差といってよいかもしれない。

11月14日前後のTwitterのタイムラインはなかなか熱かった。ブンゲイファイトクラブ関連のまさにめまぐるしく生成変化する話題―1回戦ジャッジに対するジャッジをはじめ落選展のフォローやレヴューの応酬など―が断続的に投下され、また、Twitter文学賞の後継となる「みんなのつぶやき文学賞」のアナウンスが連投された。

みんなのつぶやき文学賞https://tbaward.jp/

15日はプレイベントとして発起人5名―若林踏・橋本輝幸・矢野利裕・倉本さおり・長瀬海―による座談会が配信された(現在も視聴可能)。彼らは各々推薦図書を挙げたが、どれも海外文学をはじめ文壇的なコンテンツに乗りにくい作品を意図的に選択していた。むろん、誰もが知っているような作品など紹介しないというプロ意識があってのことだろうが、運動というものは至極単純にも、こういう反権威的なところ―彼らが意図していたかどうかは問わなくてよい―からしか生まれてこないはずである。

そういえば、発起人の矢野の『コミックソングがJ-POPを作った-軽薄の音楽史』(2019)は、文芸・演芸を運動的・身体的な側面から考察していたことも記しておきたい。

ただし、生成変化といえば聞こえはよいが、運動には仕組みの設定や運営など地道な裏方作業が欠かせない。運動の設計思想も同様である。Twitter文学賞は、創設当初のTwitterアーキテクチャーと豊崎由美の思想がマッチしたことによるものだったはずだ。小説・短詩・評論なんでもありのブンゲイファイトクラブの仕組みは、西崎憲というアイコンの文学カルチャーに対する思想が反映しているといってよい。むろん当初の設定が次々と改変されるのが運動の一側面でもある。

来るBFC第3回は、ジャッジにも興味があるのだが、BFC関連のタイムラインを見ていると、ボコボコに返り討ちを食らいそうなので、現在は新参のファイターとしてマイクロ評論―ただの書評?―を構想中である。

カルチャーというものは、程度が上のように見えるものも、下のように見えるものも、いずれにせよ無駄な浪費・運動なのだろう。近代が始まった頃にはそれがまだ見えていたのかもしれない。

道楽と云えば誰も知っている。釣魚をするとか玉を突くとか、碁を打つとか、または鉄砲を担いで猟に行くとか、いろいろのものがありましょう。これらは説明するがものはないことごとく自から進んで強いられざるに自分の活力を消耗して嬉しがる方であります。なお進んではこの精神が文学にもなり科学にもなりまたは哲学にもなるので、ちょっと見るとはなはだむずかしげなものも皆道楽の発現に過ぎないのであります。(夏目漱石現代日本の開化」)

 

*1:この問題は、「ハイ」と「ポップ」の〈差〉以上に、現在ではカルチャー〈間〉の「文化の盗用」に関わってくる。あるカルチャーに配慮なく研究・批評をすると、迎合的というよりも、端的にパージされたりウザがられたりするリスクがあるだろう。このブログ記事も水を差すものではないかと危惧している。参考記事➡PC批判と文化的盗用 - 感情レヴュー、16日追記。