感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

2008-01-01から1年間の記事一覧

古川日出男的地図作成術――来るべき古川論のために

ある意味承前*1 古川日出男の作品には、頻繁に地図が参照され、地名が記述される。しかし古川的地図は、その土地固有の風土をもたない。物語の背景として記述される地図・地名には、作中人物がかつて生活してきた記憶や痕跡をとどめないし、今後も生きるべき…

「りとぅん」注解

承前*1 前回、「りすん」と比べて前作の『アサッテの人』をじゃっかん否定的に説明したが、もちろんそんなことはない。議論の必要上、そのような説明をしたにすぎない。前作と本作の対比で、前作が否定されるべきではないのだ。 僕が言いたかったのは、本作…

りとぅん

1980年代*1に骨髄癌で死んだ母と同じ病にかかり、その「死に至る病」の反復におびえる朝子。自分の母は、白血病という、世間的に「紋切型」の死を遂げたのだった。ひょっとするとこの私も、母の反復を運命的に生かされているのではないか。彼女はそのような…

80年代文学史論 第4回――愛しの中森明菜

*1 少し前から、南明奈を知って(グラビアの彼女にはなんとも感じなかったのに、という否認の身振りに自己嫌悪しつつ、とにかくテレビ映えがいい)以来アイドル好きに回帰しつつある自分を感じて漠然とした危機感を感じている今日この頃なのだけれども、アッ…

現代批評の一分(2)

純文学をしていると、「東浩紀は文学をわかっちゃいない」という物言いをする人にしばしば出会う。口にしなくとも、彼の話を話題にすると、「ラノベのあれでしょ」的な我関せずの(まあそれはそれで妥当性のある)反応をして話は先に進まない。 今月号の「新…

夕方の光と蛍光灯の光が交差する湯気のなかで顔以外の全部を鏡に映してみること/形而上の誘惑と形而中の反映/川上未映子『乳と卵』

今回『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上未映子の文章には、叙述のあいまあいまに、「あいだ」や「狭間」や「隙間」といった言葉が間隙を縫うようにしばしば現れてきて、そこに立ち止まって注入される言葉の数々は渦を巻きながら叙述を滞留させつつ、途切れる…

年初めホラー談義

承前*1 われらがJホラーは、清水崇「呪怨」(1999)において新たな段階に入ることになった*2。Jホラー特有の、あの、環境に溶け込んだような曖昧な存在。一瞬見えたかと思うと、たちまちかき消え、目を見開いていないと逃してしまう何ものか。この蜃気楼のよ…