感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

レヴュー

子供は煙である?

最近、公共の交通機関でベビーカーを折り畳むべきか(折り畳んで子供を抱っこしてスペースを開けるべきか)、そうしなくてもいいかという議論があるでしょう? 地方(満員電車という概念がなく、そもそも移動はマイカーじゃなきゃ無理な地方)のひとは意外に…

批評のコミュニケーション

日記が百回にせまったので、このさいに文芸批評の方法論についてまとめてみる。 +++ 僕がこのところ批評を実践する上でこころがけているのは、社会学的な環境分析・消費分析と、テクスト分析を軸にした表現論のリミックスである。そういうスタンスをとり…

桜庭一樹、擬態する作家

1 桜庭一樹の作品は、文学史における過去の作品から引用、模倣、擬態するところから成り立っていることは、よく指摘されるところであり*1、また自身による解説もある。 とはいえ、過去の作品からの引用や模倣・擬態は、過去の作品が読まれた文脈を意図的に…

「夜スペ中止」の訴えは悪平等?

民間の企業出身者(藤原和博氏)が校長を務めていた東京都杉並区立の和田中学校で、今年1月から「夜スペシャル(夜スペ)」という有料の授業が始まりました。学習塾の講師が教壇に立ち、今まで公立学校では対応しにくかった成績上位層の生徒に向けた授業を提…

非私小説的彼依存型私語り自動生成機械、またの名をオートフィクション

蛇にピアス (集英社文庫)作者: 金原ひとみ出版社/メーカー: 集英社発売日: 2006/06/28メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 32回この商品を含むブログ (123件) を見るアッシュベイビー (集英社文庫)作者: 金原ひとみ出版社/メーカー: 集英社発売日: 2007/05/18…

最近僕が継続的に試みている、単線的な見取り図から文学を論じること、歴史的な視点から個々の作家なり作品を論じることがほとんどバカげたことじゃないかと思い知らされる映画二作

サッドヴァケイション プレミアム・エディション [DVD]出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント発売日: 2008/02/27メディア: DVD購入: 3人 クリック: 103回この商品を含むブログ (98件) を見るずぼらと金欠が結果してDVD鑑賞になってしまったが(443…

「りとぅん」注解

承前*1 前回、「りすん」と比べて前作の『アサッテの人』をじゃっかん否定的に説明したが、もちろんそんなことはない。議論の必要上、そのような説明をしたにすぎない。前作と本作の対比で、前作が否定されるべきではないのだ。 僕が言いたかったのは、本作…

りとぅん

1980年代*1に骨髄癌で死んだ母と同じ病にかかり、その「死に至る病」の反復におびえる朝子。自分の母は、白血病という、世間的に「紋切型」の死を遂げたのだった。ひょっとするとこの私も、母の反復を運命的に生かされているのではないか。彼女はそのような…

現代批評の一分(2)

純文学をしていると、「東浩紀は文学をわかっちゃいない」という物言いをする人にしばしば出会う。口にしなくとも、彼の話を話題にすると、「ラノベのあれでしょ」的な我関せずの(まあそれはそれで妥当性のある)反応をして話は先に進まない。 今月号の「新…

夕方の光と蛍光灯の光が交差する湯気のなかで顔以外の全部を鏡に映してみること/形而上の誘惑と形而中の反映/川上未映子『乳と卵』

今回『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上未映子の文章には、叙述のあいまあいまに、「あいだ」や「狭間」や「隙間」といった言葉が間隙を縫うようにしばしば現れてきて、そこに立ち止まって注入される言葉の数々は渦を巻きながら叙述を滞留させつつ、途切れる…

2007M-1観了

南船橋のららぽーととIKEAに行った後*1、焼酎(伊佐美!)と安いワインを飲みつつ、ビデオにとっておいたM-1グランプリ観了*2。例年の如く、お笑い素人の僕にとって収穫の多いプログラムだった。すばらしすぎる。 グランプリのサンドウィッチマンは初体験。…

『監督・ばんざい!』と『大日本人』

TAKESHIS’ [ 北野武 ]ジャンル: CD・DVD・楽器 > DVD > 邦画 > ヒューマンショップ: 楽天ブックス価格: 3,220円二人の「たけし」が、どちらが夢か現実か支配権を譲らぬまま反転し続ける。北野武監督の『TAKESHIS’』をみて、デヴィッド・リンチお得意の、現実…

orz!Z!Z!Z!――サイクロンZ論

前向き戦士サイクロンZ。リズムの変調*1にこそ笑いがひそんでいることを確信している、我らがヒーロー芸人。 与えられた時間を一定のテーマのもとにネタを披露する通常のしゃべくり芸に対して、複数分割したネタを小出しに披露する「小ネタ芸」というカテゴ…

物語から神話へ

子供の時代は、様々な可能性なり暴力性なり逸脱行為なり多形倒錯的なものなりに対する親和性があって、それを均すことが成長することと同義であるように語られる場合がある。それをとりあえずは古典的なフロイト史観といってもいいと思うけれど、このような…

フィクションの強さ、フィクションのラビリンス

ギレルモ・デル・トロ『パンズ・ラビリンス』に関する文章の最後が分かりにくいという指摘をいただきました。拙筆ゆえ仕方がないのにくわえ、極度にネタバレを恐れてしまったところにもその原因があるのかもしれません。書き直しました(「話を戻そう」以下…

『アサッテの人』評評

アサッテの人作者: 諏訪哲史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/07/21メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 56回この商品を含むブログ (123件) を見る今回芥川賞をとった諏訪哲史『アサッテの人』に対する、ウェブ上のレヴューなりコメントや、僕の身近な…

「見かけ倒し」と「人は見かけによらない」

1 先日、細木数子氏がブラウン管で「小泉待望」を語っていた。 へえ。僕は長らく彼女のことを古きよき保守を理念にした占い師として、最近の保守派・自民党は見習うべきだくらいに思っていたのですが。女はダメな旦那を後ろからコントロールして幸せを確保…

新聞切抜帖

1 以下、読売新聞(2007年9月1日)から話題の記事、全文引用。 《奈良県橿原市の妊娠中の女性(38)が相次いで病院に受け入れを断られ、死産した問題で、3度の受け入れ要請があった県立医大病院(橿原市)は31日、同病院のホームページ(HP)で消防と…

小田実追悼――原爆文学史試論

1945年の8月6日と9日に何がおこったのか知らない渋谷の学生たちへのインタビューからはじまるスティーヴン・オカザキのドキュメンタリー映画『ヒロシマナガサキ』は、原爆という出来事を、その基本の基本にたち返って検証しようというスタンスから作られた作…

純文学におけるエンターテイメントの影響を概説して、東浩紀著『ゲーム的リアリズムの誕生』を論じる

承前*1 リアルな世界よりもフィクションの世界の方にある種のリアリティーを見出すというか、創作上の可能性を見出した純文学最初の世代が、新感覚派以降、横光利一とかあのあたりだったというのは文学史的に妥当な線だろう。当時は、とりわけ相対性理論など…

宇野常寛「ゼロ年代の想像力」

このテキストで宇野常寛氏は、前世紀の90年代後半と今世紀に入ってからの00年代を区分し、物語の想像力が変化した、と指摘している(「ゼロ年代の想像力 「失われた10年」の向こう側」連載第一回、「SFマガジン」2007年7月号)。前者が、『エヴァンゲリオ…

小説の言葉、アサッテな言葉

私たちにとっての小説家・佐藤友哉の魅力は、まず何より、エンターテイメント(ライトノベル)と純文学の間でどっちつかずの優柔不断な問いを延々と重ねるところである。しばしば魅力的だと評される、彼の自意識過剰な「地声」も、エンターテイメントという…

オリエンタリズム批判を超えて――ネタ追求至上主義2

「論座」(2007年7月号)に、「他者のステレオタイプ化をどう越えるか」というテーマの鼎談があった(村上由見子×金平茂紀×ナジーブ・エルカシュ)。 ここ数年、オリエンタリズム批判を筆頭として様々な差別(的な表象・表現に対する)批判――つまり「他者の…

ゆれる「蛇イチゴ」とゆれない「ゆれる」――物語の意図と設定の齟齬

一つの事件をめぐって複数の当事者が異なった視点と見解を提示し、その齟齬に翻弄される当事者たちの人間ドラマが物語設定の核となる作品は、思えば、芥川龍之介の「藪の中」や横光利一の「機械」以降さまざまあるが、西川美和氏の「ゆれる」(2006)もこの…

純文学的『ゲーム的リアリズムの誕生』評

ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 (講談社現代新書)作者: 東浩紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/03/16メディア: 新書購入: 34人 クリック: 461回この商品を含むブログ (462件) を見る東浩紀『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポ…

ジャンルの記憶喪失

坪内‐二葉亭にはじまる近代文学は、多様な物語を生産しながらも、陰に陽に大きなテーマに包摂されてきた。それは、自我の葛藤とか、理想的なアイデンティティーの追求といわれるものである。社会が求める自己像と自分がそうありたい自己像との分裂、はたまた…

すべてがライトになる――芥川賞と星野智幸と佐川光晴

最近の芥川賞の選評はおよそゆるしがたいものがある(おっと大きく出たぞ!)。その主要な理由は、各人の選評の前提となる部分に、「そもそも私たちの純文学とはどのようなもの(たるべき)か?」という問いがいっさい感じられないからだ。 日本で最も注目さ…

「格差社会」は存在しない?

最近の文学賞に見られる選評のだらしなさに対して今度という今度は何か言おうと思い、芥川賞の選評を読むべく「文藝春秋」(07年3月号)を手に取ったら、綿矢りさが二人の成人男性(石原慎太郎と村上龍)に確保された異星人のごとく扱われている鼎談(じつは…

ネタ追求至上主義

前記(1月20日)日記のときはまだ知らなかったのだけれど、「あるある大事典」が前記納豆の放送分で虚偽の情報操作をしていたとのこと、皆様すでに報道などでご存知かと。前記日記のタイトルに「情報操作」とまで書いたのはさすがに行き過ぎかなとも思ったの…

納豆・サプリ・情報操作

ご存知の通り、納豆がバカ売れしている。いわゆるテレビ効果というか「あるある効果」なんだけれど*1、これまでも「発掘!あるある大事典」とか「おもいっきりテレビ」とかで紹介された健康・美容食品は、しばしば売れに売れることがあった。しかし、少なく…