感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

「見かけ倒し」と「人は見かけによらない」


先日、細木数子氏がブラウン管で「小泉待望」を語っていた。
へえ。僕は長らく彼女のことを古きよき保守を理念にした占い師として、最近の保守派・自民党は見習うべきだくらいに思っていたのですが。女はダメな旦那を後ろからコントロールして幸せを確保するのよ、なんて言ってるような人が小泉でいいのかね。だめでしょ。結局、保守はみずから身を滅ぼしていく運命にあるんだろうか。「古きよき」を立て直すには、小泉的なものにすがるしかないのかね。
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頭の中や心の内を視覚化したいという気持ちは誰にだってある。
昔はいっしょうけんめい心理学の本を読んだりして情報を仕入れたものだけれど、いまや「脳内メーカー」で名前を入力しさえすれば満足できるほど手軽になった。僕も「脳内メーカー」は楽しんだ口で、ナカザワのサワを「沢」にすれば「H」だらけ(なぜかその中央に「国」)、「澤」にすれば「食」だらけとなって、なるほど当たってるじゃん、という具合。それに、たとえば明石家さんまを入力すると期待通り「H」と「嘘」だらけになるあたり、このソフト開発者はマーケティングもしっかりおさえてるんだろうなあと感心すること頻りだ(有名人は前もってメーキングされてるんでしょ?)。
こんなふうに頭の中、心の内を消費するのはぜんぜん悪くない傾向だと思うし、やめろと言われたってやめられるもんじゃないんだから、楽しめるだけ楽しめばいいと思うんだけどね。でも、最近メディアに露出するようになった朝青龍(またしても!http://d.hatena.ne.jp/sz9/20070905)の見かけから判断して、彼の心の内、心の病を詮索するのはやっぱりオカシい。
担当した医者が診断した以上のことを憶測したって意味なんてないでしょ。とくに、どこぞの心理学者がブラウン管や新聞紙ごしの朝青龍だけを見て(診て、では断じてない)、これまでの診察は誤診の可能性があるとか平気で言うのって、医者なり学者としての見識を疑うし、心に関わるメディアの影響力(当事者だけではなく、メディアを通して我々の心に伝わる影響力)をまったく配慮しない心理学者がいまだに存在するという事実にとにかく呆れる。医者・学者はときとして誠実に答えちゃいけないんだよ。
とにかく、患者とじかに対面した医者の発言より、メディアの見かけ上で診断した発言の方に信憑性なり信頼感を得る我々の社会ってなんだろう。むしろ我々の心の内なり精神構造を心配しなきゃいけないのかもしれない。なんてね。ほんとう複雑な時代です。
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2007・09・21追記。以下の文は、「痴呆」ではなく「認知症」にするべきだという指摘がありました。文章上変更はしませんが、そのように読んでください。あと、不適切な内容があったので、一部改めました。

僕の家にもじゃっかん痴呆が入った寝たきりのおばあちゃんがいて、それでも、知人のなかに老人介護にたずさわる人がいるので、いろいろ助けになってくれたり、介護に関する話題を議論したりして、老人介護にまつわる悲喜劇に一喜一憂したりすることがあります。
よく知られていることですが、痴呆の場合、自分の排泄物を食べるとか(異食)、とつぜん奇声を発するとか、何かで縛っていないと転倒し大怪我をしてしまう老人に対して、最終的には家族の意向が重要なのだけど、縛るか否かで議論する施設の人々の葛藤と、そんな葛藤などお構いなしに、縛ること=非人道的だといって騒ぎ立てる政治家・自治体の関係者のことなど、様々な問題があります。
まあ誰もが齢をとれば要介護者、介護保険制度の対象者になるわけですが。ところで、介護保険には要介護度1から5までランク付けがあって、5が最重度となっていますよね。おおざっぱにいうと、軽度のランク1は、立ち居振る舞い・摂食が自分でできて、会話も相応にできるという基準値で、それが5になると、立ち居振る舞いがままならず(つまり寝たきり)、摂食・会話も不十分ということになります。
で、我々はこのランク付けを当たり前だと思うわけです。そうでしょう? しかし、老人介護でどういうタイプが、家族にとって(←ここ重要)重労働かというと、痴呆なんですよね。むろん痴呆にもかなりの差があって、ひとえに定義・限定できませんが、ひどいと常時目が離せない痴呆(徘徊とか異色とか転倒とか奇声とか)と比べたら、寝たきりの老人は相対的に(あくまでも相対的に、ですよ)楽です。まあどっちが楽かを競っても仕方がないから、同程度だ、としておきます。
それなのに、寝たきり老人は重度4とか5で、痴呆老人は、高くても3程度というケースが多い(各自治体・地域で差はあるかもしれませんが)。彼らは立ち居も口舌も基本的に(一見すると)問題ないように見えるからです。
しかも、ランク付けを調査・担当する背広を着た自治体の職員なんかが要介護者のランク付けのために訪問しに来ると、痴呆の老人に限って、私は大丈夫だ!ってがんばっちゃうらしいんですね。一日のうちの時間によっても、症状の軽重の差がありますしね(ここのところは、心の病を病んでる人にも言えます。無理にがんばっちゃうし、時間による軽重がある。ブラウン管越しになにかいえるわきゃない)。家族にとってはいい迷惑でも、その老人は老人なりに精一杯生きてるわけですよ。
いうまでもなくランクが低くなるほど介護サービスを受ける上で保護の対象になる範囲・頻度が減ります。
それに、受け入れる施設側の問題もあるそうです。施設側にとっては、ランク4とか5の老人しかとりたがらない、3以下はかなりシビアになる、ということらしいです。早い話、ランクが高いほど行政から保険料を高くとれるからだし、だとすれば、ランクが低くかつ介護に厄介な痴呆老人はどこも受け入れたがらない、というのはわからないでもありません。どこも経済的に余裕があるわけではないでしょうし。施設を責めても仕方がないところがあります。

僕は、当該老人の軽重の程度ばかりがランクを左右するような書き方をしています。しかし、その他にも、家族構成などいくつもの要件が絡み合っている、という指摘を受けました。僕が書いたものは、そういう側面もある、というように解釈してください。施設側の問題も、注意したつもりですが、施設=怠慢の印象をぬぐえないような書き方になっています。関係者の方々にはお詫びします。実際、老人(およびその家族)のことを優先させたい気持ちは、誰よりも施設の関係者が痛感していることです。ただ、その気持ちがまっとうに反映される制度とその運営が実現しているかというと、まだ各種問題がある、ということでした。最近話題になっている、妊婦の「たらい回し」問題にもいえると思いますが、現場の決断には様々な要因が絡み合っているわけで、それだけをみて鬼の首を取ったように批評することは慎まねばならないのに、僕自身それに乗っかっていたわけです。上記した老人の縛り・拘束についても僕の書き方は不十分で、最終的には老人の家族からやむなく縛ってほしいという願いがあっても、施設側は受け入れられないということのようです。とにかく、その決定に至るまでは、様々な葛藤があるし、老人とともに葛藤し続ける現状があるというわけですね。

寝たきりと同程度、あるいはそれ以上の介護サービスを必要とする痴呆老人と、彼らを抱えた家族のなかで、苦境に立たされている話はしばしば聞きます。貴重な参考テキスト→http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/chihou.html
見かけと常識、それに基づいた良識といったものがいかにあてにならず、いびつな結果をもたらしかねないものかをいたく感じたものです。
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舛添人気、舛添待望論は、僕の脳内にも何パーセントか占めていなくはないけれど、安倍首相辞任報道で注目されなくなった、ホワイトカラー・エグゼンプションに対して彼がとった「目くらまし」の真意が気になる。
ちょっと前の朝日新聞より引用。
《「残業代が出なかったら、あほらしくてさっさと家に帰るインセンティブ(誘因)になる」。舛添厚生労働相は11日の閣議後の記者会見で、一定条件を満たした会社員を労働時間規制から外すホワイトカラー・エグゼンプション(WE)についての持論を展開した。/政府は、さきの通常国会に提出した労働基準法改正案にWEを盛り込むことを目指したが、労働組合などが「サービス残業を助長し、過労死が増える」と反発。「残業代ゼロ法案」との批判を浴び、断念に追い込まれた経緯がある。/舛添氏は、WEの真意は「パパもママも早く帰って、うちでご飯を食べましょうということだ」と説明し、「家族だんらん法案」「早く帰ろう法案」などの名前にすべきだったとした。》
法律に願いをこめてどうするんだろう。というか、人によっては押し付け以外の何ものでもない。むろん法益が伴わない法律などないのだから、なにかしら願いはこめられるべきなのだけど、政府がひとの家族のことをどうのこうの言うのは法益にはふさわしくない。インセンティブとか言ったって、さっさとゴー・ホームの入力がWE一つしかないならそうなるだろうけど、いまの現代社会・職場内環境ってもっと複雑だし。WEは、それ相応の環境整備はいうまでもなく、大局的にはワーク・シェアリングの発想(現状の格差ワークシェアじゃなくて)と関連させて考えないと、けっきょく経営者にとって都合のいい法律にしかならないでしょう。ワークシェア! ひところ叫ばれたワーク・シェア、どこいっちゃったんだろう? 高所得者が残業ばかりでその対価も保証されないなんて! とか嘆いてもうこんなのあほらしくてさっさとワーク・シェアに切り替えるインセンティブになるWEとかいうのはない?(2007−09−18追記)