感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

ドキュメンタリー文学!――『女工哀史』から『生きさせろ!』まで

映画界はとくにここ何年かドキュメンタリーに活気がある。日本にいれば原一男という前例があったためにそれほど驚かなかったにせよ、マイケル・ムーアのアポ無し取材が、軽快な編集効果と相まってドキュメンタリーに衆目を集めさせることに貢献し、アル・ゴア主演の『不都合な真実』がそれなりに社会的影響力をもったり、といった現状があるのだけれども*1、いうまでもなく地道に粘り強く撮られている作品も無数にあるし、社会に向けたメッセージなんて全然ないけれどとりあえず何か撮ってみたい的な軽い気持ちで撮られている作品も無数にあって、これらがジャンルを支え豊かにしているのだろうと思う。
そんな乗りで、文学(周辺)のドキュメンタリー*2を読んでみると、かなり充実したラインナップが文学史と重なり合い、併走していることが分かる*3
例えばの話。文学ジャンルに刺激を与えるものとしてドキュメンタリーをとらえ直し、データベース(仮想空間)的に閉じつつある小説作法に抗い、ゆさぶりをかけるドキュメンタリー文学、なんてことを少し考えてみたいし、期待してしまうのである*4

*1:むろんハリウッドにとどまる趨勢ではない。

*2:ルポルタージュやノンフィクションなどとも称されて、定義は一定しないが、その検討はのちにゆずるとして、いまはとりあえず「ドキュメンタリー文学」とする。

*3:たとえば杉浦明平鎌田慧、柳田邦男、広瀬隆、一橋文哉、あるいは『ヒロシマ・ノート』の大江健三郎、『複合汚染』の有吉佐和子、『アンダーグラウンド』『約束された場所で』の村上春樹、『神戸震災日記』の田中康夫、『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』の平井玄、『生きさせろ! 難民化する若者たち』の雨宮処凛等々(古くは『日本の下層社会』横山源之助、『最暗黒の東京』松原岩五郎、『職工事情』犬丸義一、『女工哀史』細井和喜蔵等々)。

*4:ひっそりと研究を始めているのだけれど、具体的に何をやっていいのかまだ見当がついていない。とりあえずどこかの文芸誌が「ドキュメンタリー」の特集を組んだり、「あの」作家が書くルポルタージュを読んで見たいなあなんて思ったりする。