感情レヴュー

中沢忠之、『文学+』を刊行する「凡庸の会」同人

お前はモナーか、のまネコか?

 いわゆるのまネコ問題。先ずは三者からの見解を確認。
●企業に批判的な見解(ウェブを探せば色んな見解に出会えますが、ひとまずこの二サイトに代表していただきました。)
「えっ!? AVEX2chキャラを盗用!!?5分で解る「のまネコ」問題」
http://jns.ixla.jp/users/j200116605167366/5minutesJ.htm
「エイベックス著作権違反疑惑「のまネコ問題」のまとめ」
http://www.bmybox.com/~studio_u/nomaneko/index.php

●当該企業の見解(補注↓)
http://ecweb1.avexnet.or.jp/sa4web/

●エイベックスに所属しながら、今回の件に否定的な見解
http://blog.livedoor.jp/dubbybudda/archives/50062168.html

 とりあえず法的には問題ないのかもしれませんが、企業側はちょっと侮っているというか勇み足じゃないかなと思います。パブリックドメインと認知されているところの表現から引用して私利を膨らませるのは自由だとしても、そのあからさまな引用に著作権表記をするという行為は企業イメージが損なわれること無理もないでしょう。結果的に企業が損をするだけだと思いますよ。
 無断ダウンロードとか無断コピーの抑止を啓蒙する運動を展開することは権利者として当然だと思うけれど、こと大きな資本を左右できる企業は、それと同じくらい、自らの権利下にあるコンテンツを開放する方向性(パブリックドメインとの連携など)に力を注いでおくべきだと思うのです。お前らが先に無断複製を止めるべきだといいたいのもわかりますが、偽善程度でもそのくらいの余裕は見せておくべきじゃないかと。
 今回の件は、恐らく楽曲の権利者に無断でフラッシュを作製した個人の技術を評価し、お金が取れるマーケットに招いた企業の試みは評価されうるものだと思います。しかしそこに著作権を貼り付けてしまうことは、けっきょく個人(フラッシュ作製者)の技術を評価しただけで、その個人が作品を作り出すに当たって準拠した作製物・作品群(それらの多くがジャンクだとしても)とその作り手を軽視することでしかない。そのような軽視は、著作権単位でしか物事を思考できず、けっきょく一作り手としての自分に跳ね返ってくるものではないでしょうか。

9/22、21:50注記=「そこに」と曖昧な書き方をしてしまいましたが、フラッシュ作品自体に著作権を表記することは問題ないでしょう。例えば『電車男』もこのような配慮――「この著作権表示は本全体のコピーライトであり、匿名投稿の著作権を一切制限するものではありません。(後略)」――を施していました。奥付参照。ただし当然、日々無数の手によって改変を加えられるアスキーアートの個別イメージと、匿名にせよ掲示板に書き込まれる個別発言とを、法的権限において同列に語れるものではないけれど。ここで、(フラッシュ作品自体に著作権を表記することは)問題ないというのは、この作品を作った個人(集団)に権利と賞賛を与えるものではあるが、パブリックドメインに対する軽視に繋がらないということです。要はあくまでも、企業と法制外的な動きとの関係が問われている、のまネコ(C)問題なわけです。ちなみに、この関係が所在する問題は、企業にとってはただ企業倫理とか無報酬な活動として一括されうるものだろうけれど、もっと企業の営利活動とか広範囲な視野を含めて考えられる問題だと思う。例えば、なんでもかんでも(C)(R)表記=儲け、という強迫的な図式とは別の図式からの儲けも考えられるんじゃないかといったことなのですが。

 たとえばオゾンの楽曲、2ちゃんねるなどで流通するアスキーアート、それらをもとに作製されたフラッシュ、それをパッケージして商品にした企業などなど。いうまでもなくこれらの過程には、資本や法制上の権利に絡んでこない無数の動きがあるわけです。

補注=「【のまネコ著作権について】/「のまネコ」は、「のまネコ」の著作を管理する有限会社ゼンとエイベックスネットワーク株式会社が商品化契約を締結しております。「のまネコ」は、インターネット掲示板において親しまれてきた「モナー」等のアスキーアートインスパイヤされて映像化され、当社とエイベックスネットワーク株式会社が今回の商品化にあたって新たなオリジナリティを加えてキャラクター化したものですが、皆様において「モナー」等の既存のアスキーアート・キャラクターを使用されることを何ら制限するものではございません。(略)/有限会社ゼン 2005年9月8日」(http://www.e-zen.info/

9/23現在確認、商標展開があるとのこと。権利主張上、著作権であれ商標であれ私の考え方に変化はありません。以下参照。
「「のまネコ」に関するエイベックスネットワーク株式会社の発表について/先般エイベックスネットワーク株式会社が発表した「のまネコ」の商標出願(出願人:有限会社ゼン)について、説明申し上げましたが、言葉足らずのところがあり、みなさまに誤解を生じさせ、混乱を招いたことにつきまして、関係者の方々ならびに関連するみなさまにまずはお詫び申し上げます。/わたしたちはビジネスを行っておりますから、プロモーションの結果生じた市場の反応に対応してさらにその活躍の場を広げていきたいと常に考えております。しかし今回出願した商標につきましては、あくまでもグッズとして展開されるキャラクターの「のまネコ」のみであり、当然のことではありますが、わたしたちが、モナーの利用に対して権利を主張することは一切ありませんし、他のアスキーアート(例:しぃ、モララーなど)に対しても同様です。(略)/エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社 2005年9月23日」

今週見た映画というかDVD↓
 ジャン=バティスト・アンドレア&ファブリス・カネパの『-less』、とても出来の良いホラー映画。デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』(『マルホランド・ドライブ』)をめちゃくちゃシンプルな平面に展開し、ホラーに仕立て上げたという装い。理不尽で絶望的なんだけど、『ファニーゲーム』(ミヒャエル・ハネケ監督)のような後味の悪さもなく、作り手も遊んでるなという感じがして好印象でした。
 自称「無音ホラー」の『ミュートMUTE』(J・T・ペティ監督)はいささか狙いすぎて、サスペンスホラーとしてのみならず映画としても好きになれない。
 『モンスター』(パティ・ジェンキンス監督)は、なんの事前情報も入れずに見たんですが、ホラーだと思って構えてたら、クリスティーナ・リッチがでてきて、やっぱり彼女はいいなあと痛感しつつ終。とはいえこの映画は主演のシャーリーズ・セロンがのきなみ多くの主演女優賞を獲得した作品らしいのだけれど、それでもやっぱり一押しは、このために13キロの肉塊をつけたセロンの側にあるのではなく断然クリスティーナ・リッチの美しさで、それは普通の映画女優の美の文法を崩してもなお残る美しさみたいなところにあると思うんだけど如何。